★共同富裕と新しい資本主義

2021年11月10日

マンション.jpg最近日本でも中国にかかわる報道が随分と増え、皆さんの関心も高まって来ていると思います。ちょうど先日、上海に39年間在住している我々の関連会社の中国支配人より分厚いレポートが届きましたので、その中からポイントだけですが披露させてください。

まずはすっかり有名になった恒大集団にかかわる不動産の話から。意外にも、上海の不動産価格はこういう事態にかかわらず下がっていないそうです。ただし、住宅ローンが認可されても銀行の支払いがストップしているため、成約率は昨年の半分以下に。

ちなみに相場の実態についての一例をご紹介すると、ある社員が中心部から立ち退きを命じられて得た補償金がなんと一千万元(約1億8千万円!)。しかし、便利な内環状線内で再度マンションを購入しようとすると、1.5~3千万元はするそうです。通勤に一時間かかる郊外でようやく6百万元(約1億1千万円)ですから、日本の感覚からすると明らかにバブルということでしょうか。今回の政策転換の目玉の一つに固定資産税の導入があり、特に世帯数と面積で算定されるため、投資用に購入した場合はさらに課税が重くなるなど、今後の動向に目が離せない状況です。

更に話題になった学習塾の件。実は5年前に一度私立学校を禁止する条例が出そうになり、その時は撤回されたものの、この7月には非営利企業しか認めない「学習塾包括的規制案」が即時実行されました。このため、習字や絵画などの文化や体育を除いた学習塾はほぼ倒産、11兆円の売上と一千万人の雇用を持つ産業が一瞬にして無くなりました。実は、中国では子供の勉学や受験に対する意識は非常に高く、子どものいる家庭で夜テレビをつけるのはご法度。テストの時期は、両親も外出を控えるので、小売店の売り上げも減ってしまうほど。それだけに、月曜から日曜まで毎日塾に通っていた子も珍しくないそうです。また、共働きの多い中国家庭では帰宅まで子供を預かってくれるありがたい存在であることもあり、中国人にとって学習塾の存在意義は非常に大きいことがわかります。更に問題になっているのが、前払い金の返済。有名な塾だとその額は100万円ほどにもなり、倒産した会社からそれをどう回収するかで大混乱がおこっているとのこと。

個人だけでなく、SC(ショッピングセンター)にもその影響が出ています。中国ではSCの上層階は飲食と学習塾というのが相場で、その広い面積がSCから無くなってしまいました。これはデベロッパーにとって当然痛手ですが、それだけでなく、塾に送り迎えに来る両親が来なくなることで、テナントの売上にも影響が出ている様です。

こんな大騒ぎになってでも、政府が塾を解体したいと思ったのは何故でしょうか。思想教育をコントロールしたいという思惑もあるでしょうが、皆がこぞって有名大学、有名企業を目指すせいで、

ITや教育産業は人気があるものの、工場や商店は人手不足が日常化し、その流れを煽っているのが、塾に来さえすれば誰でも良い大学、良い企業に行けるという幻想的な広告を出していた学習塾という構図がありました。実際、中国の我々の関連会社は小売業ですが、なかなか新卒の採用が難しい状況が続いています。個々の子供たちが、それぞれにあった職業選択を目指さないと、社会の機能が果たせなくなるという危機感も、これだけの決断した要因ではないかとのことでした。

こんな大混乱の中国ですが、将来についてはまだ意外と楽観的なのにも驚きました。支配人によれば、高騰した不動産、乱立した学習塾、一気に参入が相次いだレンタサイクル事業などのケースに見られるように、中国では何事もやりすぎてしまうのが通常。このため一旦政府の締め付けが厳しくなるものの、やがて正常化すればその規制も緩くなり、そして生き残ったところが適正な企業活動を行えば、将来は悲観したものではないと・・・。

ただ、中国の「共同富裕」も日本の「新しい資本主義」も、貧富の拡大が企業や経営者が原因であり、「だから政府が企業統制力を強める」という構図は気になります。本来、貧富の格差は統制や規制ではなく、経済政策や社会保障でカバーすべきでしょう。確かに身勝手な経営者もいますが、企業が長く繁栄するには、常にお客様や社員のことを考え続けることが不可欠です。ですから我々が投資する企業の経営者は、自分のことよりも他の人のことを考えられる人間でなくてはなりません。果たして、政府がより権限を持つ社会が発展をもたらすのか。歴史は彼らをどう評価することになるのでしょうか。

多根幹雄
執筆者
多根幹雄
クローバー・アセットマネジメント株式会社
代表取締役社長 運用統括責任者
スイス、ジュネーブに1999年から9年間駐在し、グループ企業の資金運用を担当してきました。その間、多くのブライベートバンクやファミリーオフィスからの情報により、世界18カ国100を超えるファンドマネージャーを訪問。実際投資を行う中で、良いファンドを見極める選択眼を磨くことが出来ました。また当時築いたスイスでのネットワークが現在の運用に大いに役立っています。また、大手のメガネ専門店チェーンの役員として実際の企業の盛衰も経験し、どんな時に組織が良くなり、また悪くなるかを身をもって体験しました。そこから、どんな企業やファンドにも旬や寿命があるというのが持論です。その為、常に新しいファンドを発掘し、旬のファンドに入れ替えを行うことで、長期で高いパフォーマンスを目指しています。

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